メロンパンとネコ

「焼きたてジャぱん」という漫画があります。
原作を読んだ事はないのですが、私が小学生の頃にアニメが放送されていて、その後にV6の「学校へ行こう」を見るのが我が家の火曜日の定番でした。
全国のパン職人が、美味しいパンを作り競う話だったと思います。
確か主人公はカチューシャをしてたな、そんな曖昧な記憶しかないのですが、そんな焼きたてジャぱんにとても印象深い話があり、今でもよく思い出す事があります。
メロンパン対決の話です。

対戦相手は、都内で毎日行列が出来るほど人気のある店舗のパン職人。
そこの人気商品でもあるメロンパンに、1つ何万円もする高級マスクメロンを使用して勝負してきます。お腹が空いてきます。
対する主人公はメロンパンの特徴を考慮し、アイデアを練りながらも、スーパーで手に入る1個100円のメロンジュースを使いパンを焼き上げました。
私は絶対に前者を食べたいと、当時テレビ画面の前で思ったのを覚えています。
しかし、審査員の判定は主人公の勝利。
「どうして高級マスクメロンを使った僕のメロンパンが、メロンジュースなんかに負けるんだ!」
負けた事に納得がいかない様子で感情的に叫びながら、対戦相手は審査員に詰め寄ります。
そんな対戦相手に審査員はゆっくりと、そしてハッキリと理由を述べました。
「確かにお前のメロンパンは美味かった…しかし!それはメロンが美味いのだ!パンで勝負していない!!」
本質のヒントを得た気がした、と言えば大袈裟ですが、当時小学生だった私に大きな発見をもたらしてくれた放送回でした。
その審査員による言葉が、今も私の頭の隅で、時より顔を覗かせる事があります。

私の趣味は、ネコの写真を撮る事です。
ありがたいことに、SNSや展示などで時よりお褒めの言葉を頂くこともあるのですが…
そんな時、普段褒められ慣れていない私の鼓膜を、あの審査員の声が揺らすのです。
「それはネコが可愛いのだ!写真で勝負していない!」と。
5年前のある夕暮れ時。自宅のベランダでキャンピングチェアーにもたれる私の頭の中では、春風に巻き上げられる木の葉の様に様々な言葉が渦巻いていました。
(私の撮る写真は、可愛いネコを写した写真だ)
(褒められているのは、私の写真じゃない、写っているネコだ)
(私のメロンパンは、メロンが美味いだけのーーー)
「お前が俺たちを撮るのは、評価を得るためかにゃ?」
突然、誰かが私に話しかけてきました。

俯いていた私は顔を上げ、声のする方へ視線をむけました。
するとそこには普段我が家によく遊びに来てくれる地域猫のクロベエが、前足を揃えて背筋を伸ばし、地面に座っていました。
身体を傾け体勢を崩したクロベエは、後ろ足で顔を2、3度掻き、再び座り直すとゆっくり口を開きました。
「メロンパンを作りたいなら、作れば良いだけにゃ」
突然話し出したクロベエに、私は呆気にとられてしまいました。
目を丸くして驚く私を前にして、目線を逸らし、長い尻尾をバシバシと地面に叩きつけるとクロベエは続けました。
「……飯はまだかにゃ?」

special thanks : クロベエ
