喫茶店と俺

昭和生まれである。
いつまでも若者のつもりでいたら、もうすっかり中年である。
ギャラリーで若いやつら(親しみを込めて)に会うと、より一層そう思う。
レトロブームである。
ブームというか、何かもう古いものがいいというひとつのカルチャーになっているような気がする。
そのひとつが、喫茶店である。

フィルムカメラをやるようになって6年ほど経った。
その間にギャラリーを開いたのだが、フィルム写真展なんかを企画していると、周りにフィルムカメラ好きな人たちが集まってくる。
特にうちは、若い人が多い。
古いものに愛着を感じる人が多い。
そういう人たちと触れ合っているうちに、皆がほぼ共通して喫茶店が好きなことに気がついた。
ギャラリー近くのカフェを聞かれたとき、何軒か紹介するのだが、皆だいたいレトロな喫茶店を選ぶ。
喫茶店の何がそんなにいいのだろう。
そこはかとない、懐かしい感覚だろうか。

若いやつらの感覚はよく分からないが、自分の感覚なら分かる。
喫茶店に行くと、何となく癒されるのだ。
ギリギリ昭和の空気感を覚えている世代としては、喫茶店の醸し出す空気感というのは、幼少期の記憶の匂いそのものである。
幼少期の何の不安も無かった頃を思い出す。
匂いが記憶を刺激する。

父親は窓辺で煙草をくゆらせ、母親は台所でコーヒーを入れる。
朝食はいつもチーズトーストであった。
私にとって喫茶店は、幼き日の、まだ未来に何もかもを預けられたあの頃の、朝の匂いを思い出させてくれる場所だ。
それが癒しになるということは、翻って、いま生きている今日に、疲れてしまうことが多いという現実が、表れているような気がしなくもないのだが。
ただ、そんな場所がまだたくさん残っているという現実は、割といいなと思う。

世田谷・千歳烏山のギャラリーフィルモ店主。フィルムカメラをはじめとした、ノスタルジックな写真好きを集めて、日々何かを企てている。

